ひと夏の恋

芝居を観に行った帰り焼鳥屋に飲みに行った。
連れがトイレに立ったので、ぼうっとしていたら、
隣の席の男の子が
「オス!」
と、とても自然な調子で話しかけてきたので、
私も思わず、
「おっす!」
と返事をしてしまった。
彼は母親と母親の友人達の飲み会についてきたようで、
見た感じ小学校5年生くらいのようだった。
「夏休み?」
と尋ねると、
「いや、違う。火曜からだね。」
「そっか。じゃあ月曜も行くんだね。」
「うん。まあね。」
「どう?学校は?」
「まあまあだね。」
「そっか。まあ、色々あるからね。」
と、そこまで話したところで、連れがトイレから戻ってきたので、
話は中断された。その後、彼のことはすっかり忘れ、
焼酎と焼き鳥に夢中だった私なのだが、
店を出ると、店の前に彼がぽつんと立っていたので、
「じゃあね。」
と声をかけると
「またどっかで会おうな。」
と彼はさわやかに言い、さっと身を翻して突然走り出し消えてしまった。
彼が着ていたシャツの背中に“23”とあるのを見て、
「気をつけろよ。23番。」
と私は言うことしかできなかったのだが、
あやうく恋に落ちそうであった。